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第63話 綾乃を迎えに行く

Author: marimo
last update publish date: 2026-03-13 20:22:24

 雨が降り始めていた。

 最初は気づかないほどの、細い雨だった。

 街灯の光にかすかに浮かび上がるほどの、静かな雨。

 都会の夜のざわめきに紛れてしまうような、弱い降り方だった。

 会員制ラウンジの重いドアの向こう側で、

 綾乃は、動けずに立ち尽くしていた。

 ドアは完全には閉じていない。

 ほんのわずかな隙間から、室内の空気が流れ出してくる。

 耳に残るのは、笑い声。

 酒のグラスがぶつかる音。

 低く流れる音楽。

 そして、楽しげな会話の断片。

 その中に、聞き慣れた声があった。

 ――神崎和真。

 次の瞬間。

「どこのあばずれかわかんない女より、鷹宮財閥の令嬢なら、オレの家柄とも合うだろ」

 胸の奥で、何かが音を立てて崩れた。

 今まで積み上げていた何かが、

 静かに、しかし確実に崩れ落ちる感覚。

 否定してほしかった。

 冗談だと、悪ふざけだと、誰かが言ってくれるのを待っていた。

 聞き間違いだと笑ってくれる誰かを、

 どこかで期待していた。

 けれど、続いたのは歓声と嘲笑だけだった。

 軽い笑い声。

 酒に酔った男たちの無責任な声。

 それが、すべてを肯定していた。

 足が
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